2001年、アートメイクをめぐって健康被害が相次いだことを受けて、厚労省が「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為には医師免許が必要」とする通知を各都道府県に出している。しかし、2023年7月3日になって、改めて、「医師免許を有しない者によるいわゆるアートメイクの取扱いについて」という厚生労働省医政局医事課長通知(医政医発0703第5号)が、各都道府県衛生主管部(局)長あてに出された。その背景には、2020年9月16日の最高裁判所決定(平成30年(あ)1790号医師法違反被告事件)において、「タトゥー施術行為は医行為でない」と判示されたことをうけ、従来の医師法(昭和23年法律第201号)第17条に関する学説・判例等の概要を整理し、今後の同条の運用のあり方について検討を行ったことがあった。
最高裁の当該決定におけるタトゥー施術行為が医行為でないと判示された根拠事情のうち、最も重要かつ本質的な点は、「タトゥーは、歴史的に、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情がある」と示された上で、「すなわち、タトゥーの担い手は歴史的に医療の外に置かれてきたものであり、そのこと自体が、タトゥーの社会的な位置づけを示すものとして理解されうる」と示された。一方、「アートメイクについては、医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態」があり、「一定の侵襲性が認められることや、医療従事者による安全性水準の確保がきわめて重要と考えられること」から、「医行為該当性が肯定できる」ものと考えられると示された。
2023年6月28日、医師法第17条の解釈について以下の照会が、福島県保健福祉部長からあった(5健第3000号)。
「医師免許を有しない者が、針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れて、
(1) 眉毛を描く行為
(2) アイラインを描く行為
を業として行った場合、医師法(昭和23年法律第201号)第17条違反と解してよろしいか」に対しては、下記のとおり回答した。
医師法(昭和23年法律第201号)第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。御照会の行為は、医行為に該当し、医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反するものと思料する。さらに、この通知は「指導を行っても改善がみられないなど、悪質な場合においては、刑事訴訟法第239条の規定に基づく告発を念頭に置きつつ、警察と適切な連携を図られたい」とも求めている。
つまり、医師でない者が行うタトゥーは医師法違反ではないが、アートメイクは医師法違反になる。その理由は前者は歴史的に彫り師が医療の外で行ってきたという社会的位置づけがあり、後者に関しては、「アートメイクの概念は、必ずしも一様ではないが、美容目的やあざ・しみ・やけど等を目立ちづらくする目的で、色素を付着させた針で眉、アイライン、唇に色素を注入する施術が主要なものであり、その多くの事例は、上記の美容整形の概念に包摂し得るものと考えられ、アートメイクは、美容整形の範疇としての医行為という判断が可能であるというべきである」としている。医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態があり、一定の侵襲性が認められ、医療従事者による安全性水準の確保がきわめて重要だからということである。すっきりと両者の違いに線が引かれたわけではないようだが、少なくとも健康被害が続いていたアートメイクは医師のもとで安全になされるべきであり、タトゥーは(健康被害は不明)医師が行うという対応ではなく、別の方法で今後の安全性が保たれていく方策を取る必要があるだろう。昨今、来日する外国人ではタトゥーを入れているものが数多く見られ、今後、国内でも増加する可能性はあり、今後のタトゥー業界や国の対応が適切になされることを期待する。
*写真は https://vocus.cc/article/65d9e7cbfd89780001e43608 から
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