はじめに GLP-1とは?
GLP-1自体は食事をすると小腸などから分泌されるホルモンで、血糖値が高いと膵臓からのインスリン分泌を促し、血糖値を下げる。このGLP-1に似た働きをするのがGLP-1受容体作動薬だ。肥満に伴う代謝異常が様々な疾患に影響しており、GLP-1受容体作動薬がそれら疾患に効果をもたらすと予測された。
肥満や2型糖尿病の人は心臓発作や脳卒中を起こす可能性が高いので、GLP-1受容体作動薬が心血管疾患のリスクを低下させると考えられた。不安やうつ病、飲酒などの依存行動にも有効な可能性がある。その理由は、肥満原因のいくつかは脳にあり、依存症などでは報酬系への影響が関与しているからである。また、脂肪は炎症を引き起こす物質で、脂肪が炎症や自己免疫疾患にも影響する。食事と代謝が健康に重要であることは皆さんもご存じのことでしょうから、ますます気になりますね。GLP-1や肥満、体重減少、食生活、代謝、炎症、ダイエット、等について記します。
1.グルカゴン
GLP-1 はグルカゴン様ペプチド-1という名前の通り、グルカゴンと似た構造をしていますが、その働きは全く異なります。
グルカゴンは、主に膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を上昇させる働きがあります。主な作用は以下の通りです。
- 肝臓でのグリコーゲン分解促進: 肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解し、グルコースを血液中に放出することで血糖値を上昇させる。
- 糖新生促進: 肝臓でアミノ酸などからグルコースを新たに作り出す糖新生を促進することで血糖値を上昇させる。
- 脂肪分解促進: 脂肪細胞から脂肪酸を遊離させ、エネルギー源として利用できるようにすることで血糖値を上昇させます。
グルカゴンは、インスリンと拮抗的(反対の作用)に作用し、血糖値を一定に保つために重要な役割を担っています。
GLP-1とグルカゴンの働きは全く逆です。
- GLP-1は血糖値を下げる。
- グルカゴンは血糖値を上げる。
GLP-1は、インスリン分泌を促進したり、グルカゴン分泌を抑制したりすることで、血糖値を調節します。
まとめると、以下のようになります。
グルカゴンとGLP-1は、どちらも血糖値調節に関わるホルモンですが、分泌される場所と作用する主なターゲットが異なります。
1)グルカゴン
- 分泌: 膵臓のα細胞から分泌されます。
- 主な作用ターゲット: 肝臓です。
- 作用: 肝臓に働きかけて、グリコーゲン分解と糖新生を促進することで、血糖値を上昇させます。 肝臓以外にも、筋肉や脂肪組織にも作用し、血糖値上昇に関わります。
2)GLP-1
- 分泌: 小腸のL細胞から分泌されます。
- 主な作用ターゲット: 膵臓のβ細胞です。
- 作用: 膵臓のβ細胞に働きかけて、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することで、血糖値を低下させます。
- 膵臓以外にも、脳、胃、腸、肝臓など、様々な臓器に作用し、食欲抑制、心血管保護、神経保護など、多様な効果を発揮します。
さらに、オタクな質問ーGLP-1はグルカゴンと名前が似ていますが、働きは全く逆で、血糖値を下げるホルモンです。では、なぜ「グルカゴン様」と呼ばれるのでしょうか? 答えは、GLP-1がグルカゴンとアミノ酸配列の一部が似ているからです。
2.GLP-1
GLP-1は、1980年代に、ヒトの腸から発見されたホルモンで、構造を解析したところ、グルカゴンとアミノ酸配列の一部が似ていることがわかり、「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」と名付けられました。
アミノ酸配列の類似性
GLP-1とグルカゴンは、どちらも30個程度のアミノ酸からなるペプチドホルモンですが、両者のアミノ酸配列を比較すると、9個のアミノ酸が同じ位置に存在するというアミノ酸配列の類似性から、GLP-1はグルカゴンと構造的関連があると考えられています。
これは、ホルモンの名前と構造や機能が必ずしも一致しないことを示す良い例とのことです(顔は似ていても、心は他人?)。健康オタクか、医療系の方には興味ありましたか?
3.GLP-1の生物学的機能
GLP-1の生物学的機能は何?いわゆる薬剤(受容体作動薬)ではなくGLP-1自体の機能を説明します。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1、Glucagon-like peptide 1)は、主に小腸のL細胞と呼ばれる内分泌細胞から分泌されます。食事を摂取すると、GLP-1の分泌が促進されます。以下の作用があります。
1)血糖値調節と膵臓、胃、腸、肝臓への作用
- インスリン分泌促進作用: 血糖値の上昇を感知して膵臓からのインスリン分泌を促進し、血糖値を下げる。
- グルカゴン分泌抑制: GLP-1はグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑制することで血糖値の上昇を抑える。
- 胃内容排出抑制: 食後の胃内容物が腸(食物の栄養は腸で吸収される)へ排出される速度を遅らせることで、血糖値の急上昇を防ぐ。
- 糖新生抑制: 肝臓での糖新生(糖以外の物質からグルコースを生成すること)を抑制することで、血糖値の上昇を抑える。
2)食欲抑制
- 満腹感亢進: 脳の満腹中枢に作用し、満腹感を感じやすくすることで食欲を抑制する。
3)心臓
- 心筋収縮力を高め、心拍数を調節する。
- 血管拡張作用や抗炎症作用などにより、心血管系を保護する。
4)腎臓
- 腎臓の血流量を増加させ、ナトリウム排泄を促進することで、血圧を低下させる。
5)脂肪組織
- 脂肪細胞に作用し、脂肪分解を促進したり、脂肪合成を抑制したりすることで、体重減少効果をもたらす。
つまり、血糖値を下げて糖尿病を防ぐ、胃腸の動きを抑えて「お腹がいっぱい」にさせ、脳(食欲中枢)でも満腹感を感じる。これによって、たくさん食べられなくなり、食べても太らなくなるという「痩せ」への体調変化が起きるというわけです。
4.消化管ホルモンインクレチンに含まれるGLP-1とGIP
ホルモンというと脳―下垂体系ー卵巣、甲状腺、副腎などのホルモンが浮かぶかもしれませんが、GLP-1はインクレチンという「消化管ホルモン」に分類されています。以下は、インクレチンであるGLP-1とGIP(gastric inhibitory polypeptideまたはglucose-dependent insulinotropic polypeptide)について。ホルモンの作用メカニズムには、ホルモンの刺激を受けて機能を発するための受容体(鍵と鍵穴の関係)の仕組みがあり、いろいろな組織に存在しています。
インクレチンとエネルギー代謝
インクレチン(incretin)
インクレチンとは消化管由来のインスリン分泌促進因子である.
上部小腸などに存在するK細胞からはGIP(gastric inhibitory polypeptideまたはglucose-dependent insulinotropic polypeptide)
下部小腸などに発現するL細胞からはGLP-1(glucagon-like peptide-1)
いずれも、食事(特に糖)に伴い分泌され、膵β細胞に発現する受容体(GIP受容体,GLP-1受容体)を刺激してインスリン分泌を促進する(図12-16-1、上記).インクレチンの膵作用によってインスリンが増加すると,インスリンの同化作用により脂肪細胞への中性脂肪蓄積などが生じ,エネルギー代謝は蓄積に傾く.一方,インクレチンの受容体は膵外組織にも発現しており,GLP-1受容体とGIP受容体の組織発現様式は異なる.これらのインクレチンの膵外作用によって,GLP-1とGIPはエネルギー代謝に異なる役割をもっている.
a.GLP-1とエネルギー代謝
GLP-1受容体は中枢神経系や胃に発現している.高濃度で薬理学的にGLP-1で刺激すると,食欲抑制や胃運動抑制が生じる.その結果,摂取エネルギー量の低下につながる.
b.GIPとエネルギー代謝
GIP受容体は脂肪細胞に発現している.GIPシグナルが抑制された状態では,栄養素は脂肪細胞に蓄積しないで,肝や筋などでエネルギーとして消費される.逆に,増強されたGIPシグナルは脂肪細胞への栄養素の蓄積を促進し,消費エネルギー量を低下させる.
ちなみに、DDP-4(Dipeptidyl Peptidase-4 ジペプチジルペプチダーゼ-4)とはインクレチンの分解を行う酵素である。その働きを阻害(反対に作用)するDPP-4阻害薬は2型糖尿病治療薬のひとつで、インクレチン(内因性GLP-1およびGIP、自分の体から出るという意味)の血中における濃度を上昇・維持させ、インスリン分泌を促すことを目的に経口投与で使用されている。だんだん、GLP-1に近づいてきましたね。そうです、インクレチンに作用するもう一つの2型糖尿病薬がGLP-1受容体(に)作動(する)薬ですね。