腟フィラー(注入)よりもフィジカルエクササイズを

 腟フィラーとは、ヒアルロン酸などの注入(充填)剤を用いて腟壁や周辺組織にボリュームを増加させることで、腟の若返りを謳う施術です。

具体的な手技

診察とカウンセリングの後に、局所麻酔(クリームや注射)による麻酔が行われます。 注入剤を充填した細い注射針を用いて、腟壁や周辺組織に注入します。施術後は、安静にし激しい運動や性交渉は控えます。

使用される注入剤

ヒアルロン酸: 比較的安全性が高く、アレルギー反応が起こりにくいのが特徴です。注入後、徐々に体内に吸収され、効果は半年から1年程度持続します。

コラーゲン: 皮膚や骨、軟骨などに含まれるタンパク質の一種で、体内で弾力性や保湿性を高める効果があります。動物由来のタンパク質で、人体に注入するとアナフィラキシー反応を引き起こす可能性があるので、海外で承認されている製品はありません。アナフィラキシーは、重度のアレルギー反応で、呼吸困難、血圧低下、意識障害などを引き起こし、生命に関わることもあります。ヒアルロン酸に比べて効果の持続期間は短く、数か月程度です。

世界の学会の見解と承認状況

 日本では、美容クリニックなどで腟フィラーの施術が行われていますが、承認されていない注入剤が使用されており、安全性や有効性については注意が必要です。日本産科婦人科学会は、腟フィラーに関する公式な見解やガイドラインを発表していません。

米国産婦人科学会、国際美容形成外科学会は、長期的な安全性と有効性についてエビデンスに乏しく、更なる研究が必要であると述べています。

  • アメリカ: FDA (Food and Drug Administration) は承認していません。
  • ヨーロッパ: 腟フィラー製品の一部が承認されていますが、日本で安全に使用できるわけではありません。日本でEU産の腟フィラー製品の注入を受ける際には承認済みか否かを医師に確認することをお勧めします。
  • 韓国: 腟フィラーは広く行われていますが、合併症に関する報告も増加しています。

以下のリスクと副作用があります。

注入部位の腫れや痛み、内出血、感染、アレルギー反応

晩期合併症

  • 注入剤の移動: 注入剤が注入部位から移動し、しこりや変形を引き起こす
    • 英語: Migration of filler, granuloma formation
    • 韓国語: 필러 이동 (pilleo idong), 육아종 형성 (yugwajong hyeongseong)
    • 日本語: 注入剤の移動、肉芽腫形成
  • 慢性疼痛: 注入部位の痛みが長引く
    • 英語: Chronic pain
    • 韓国語: 만성 통증 (manseong tongjeung)
    • 日本語: 慢性疼痛
  • 性交痛: 注入剤が性交痛を引き起こす
    • 英語: Dyspareunia
    • 韓国語: 성교통 (seonggyotong)
    • 日本語: 性交痛
  • 排尿障害: 注入剤が尿道を圧迫し、排尿障害を引き起こす
    • 英語: Urinary dysfunction
    • 韓国語: 배뇨 장애 (baenyo jangae)
    • 日本語: 排尿障害

結論

 腟フィラーは、安全性と有効性についてはまだエビデンスが乏しく、おすすめはできません。注入されたものが一か所にとどまるよりも他の場所へ移動(型崩れ)したり、しこり硬さを引き起こしたりする可能性があります。また、時間とともに溶けたりして消えていくので、繰り返して注入する必要があるなど、メリットが乏しいでしょう。

腟のたるみ性機能改善には、下半身エクササイズ骨盤底筋群の筋力アップのほうが安全、かつ、健康的で、はるかに効果的です。

*図は骨盤底筋群体操 https://as2.ftcdn.net/jpg/03/48/43/53/1000_F_348435331_4RBhUxah3rVloOqlUurCU9QJPSBCDhb7.jpg

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この記事を書いた人

代表紹介 今野良 
医師 (自治医科大学卒業)
医学博士 (東北大学)
Prof. Ryo Konno, MD, PhD
臨床医・研究者としてのキャリアと実績

所属・学会・研究員
自治医科大学総合医学第2講座(産婦人科)教授
日本産婦人科学会(専門医)、日本婦人科腫瘍学会(専門医)、日本産婦人科内視鏡学会(理事、技術認定医)、日本臨床細胞学会(専門医)、日本エンドメトリオーシス学会(理事)、日本婦人科がん検診学会(2012年学術集会長)、日本美容内科学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本産婦人科医会、日本医学旅行学会
Asia-Oceania Research Organization in Genital Infection and Neoplasia (AOGIN アジアオセアニア生殖器感染および腫瘍研究機構、日本代表理事、2017年東京大会会長)
Aesthetic &Anti-Aging Medicine World Congress(世界美容・アンチエイジング医学会)
Wold Endometriosis Society (世界子宮内膜症学会)
NPO子宮頸がんを考える市民の会(理事長)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班員
独立行政法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター(UNIBIOHN)客員研究員

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