医学・医療というのは、科学や学問の進化に伴って、発展すると思われがちですが、それは一つの側面にすぎません。臨床の現場では、常に患者さんと接していますが、そこには誠意と思いやりに基づくコミュニケーションが必須です。「オレはできる」とか、「私ならやれる」という承認欲求よりも、謙虚で正直な態度が患者さんやご家族の信頼を得ることにつながるはずです。新薬や医療機器、新しい手術方法の開発においては、臨床試験に参加いただく人々がいなければ、それらの発展もありません。学生や若い医師の研修・実習は、多くの患者さんのご協力(看護師をはじめとする医療従事者達も)によって成り立っています。医学生の解剖実習では、まさしく献体いただいたご遺体本人とご家族に対して、その尊い遺志に報いるべく慎重に丁重に接します。さらに、実験や研究、実習において使用される動物に対しても同じです。私自身、ラット、マウスから、ウサギ、ブタ、サルと様々な動物のおかげで研究、実習(手術も含む)、トレーニングが出来たことに深く感謝してきました。当然ですが、動物に対する実験や実習もきちんと麻酔をかけてから行います。終了時には、解剖実習でも、動物実験でも心から黙祷を捧げます。大学や研究施設では、定期的に慰霊祭や供養祭が行われます。もちろん、医師法や動物愛護等の法律などの様々な法規やルール、倫理委員会や審査委員会などの承認事項を守ることは原則ですが、基本はお世話になった人や動物に対する感謝と尊敬だと思います。それは、国や環境が違っても変わりはありません。医師という資格をもっているという責任の認識は重要ですが、それ以前に人として当たり前のことができるかどうかでしょう。それでも、医療現場や研究・実験の際に悩んだり、困ったりすることがあります。また、意図せずとも失敗や過ちを起こすこともあります。その際に、自分の拠り所となるのは「医学(科学)に対して真摯であること、患者さん(あるいは、市民、国民、世界の人々)のお役に立つこと」だと心がけています。
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