乳房へのヒアルロン酸注入による豊胸術(乳房増大術)のリスクは何?大丈夫なの?

 乳房へのヒアルロン酸(非吸収性ではなく、吸収性充填剤です)注入による豊胸術は、メスを使わずにバストアップできる手軽さから人気を集めていますが、リスクと合併症が存在します。手技に伴う感染や血腫、痛みなどの医学的リスクがあるのは当然ですが、今回は行うべきではないという厳しいアドバイスを。写真は厚労省の通知です。これは、いまだに国内で非吸収性充填剤が使用されトラブルを起こしていることへの注意喚起。

結論「ヤバいです!ヒアルロン酸による豊胸術は避けるべき」です。以下のトラブルがあります。

しこり: ヒアルロン酸注入によって、乳房にしこりができることがあります。これは、注入されたヒアルロン酸が周囲の組織と反応して硬くなるために起こります。凸凹になる!

ヒアルロン酸の移動: 注入されたヒアルロン酸が、時間の経過とともに移動することがあります。形が崩れる!

画像診断への影響: ヒアルロン酸注入により、マンモグラフィや超音波検査などの画像診断で乳がんの発見が遅れる可能性があります。乳がん検診を受けてもがんが発見できない!

発がん性: まだ明確な結論が出ていませんが、いくつかの研究で、特定の種類のヒアルロン酸が、がん細胞の増殖を促進する可能性が示唆されていて、さらなる研究が必要です。

 米国食品医薬品局(FDA)は乳房増大にヒアルロン酸製剤を用いることを許可していませんヨーロッパ(EU)においては,最も多く使用されたMacrolane™ は2011 年に使用許可が撤回され、2017 年には完全に姿を消しました.それ以降,乳房増大に用いられるヒアルロン酸製剤は,MILF 1/2™などごく限られたものがあるが、安全性に関する科学的データは存在しないという状況です。

 ところで、日本においては,2019 年 4 月 25 日に日本形成外科学会,日本美容外科学会(JSAPS),日本美容外科学会(JSAS),日本美容医療協会の美容医療に関連する学会が,共同声明により「安全性が証明されるまでは非吸収性充填剤豊胸目的に注入することは実施するべきではない」と公表しています。非吸収性充填剤による豊胸術に関する合併症の発生状況は、予想以上に多くメディアに取り上げられました。厚生労働省も同日の厚生労働省医政局総務課長通知により,写真の注意喚起と上記の共同声明の周知を行っています.

さて、日本の美容医療診療指針(令和3年度版)*では、ヒアルロン酸は吸収性充填剤であるとしながら、ヒアルロン酸製剤注入による乳房増大術は手軽に行えるという利点があるものの,高コスト,被膜拘縮や結節形成などの合併症,および乳腺疾患診断への影響といった負の側面も有する.以上から,益と害のバランスを考慮すると,乳房増大術を希望する患者に対してヒアルロン酸製剤注入は勧められないとしています.つまり、海外でも国内でも、ヒアルロン酸による豊胸術は、安全性を保障できない、選択すべきでない方法なのです。

*注入後の方は定期的な検診(乳がん検診)が大切です。

参考情報

*厚生労働省: 美容医療を受ける皆様へ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04978.html

*日本美容外科学会: 美容医療診療指針 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00749/

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この記事を書いた人

代表紹介 今野良 
医師 (自治医科大学卒業)
医学博士 (東北大学)
Prof. Ryo Konno, MD, PhD
臨床医・研究者としてのキャリアと実績

所属・学会・研究員
自治医科大学総合医学第2講座(産婦人科)教授
日本産婦人科学会(専門医)、日本婦人科腫瘍学会(専門医)、日本産婦人科内視鏡学会(理事、技術認定医)、日本臨床細胞学会(専門医)、日本エンドメトリオーシス学会(理事)、日本婦人科がん検診学会(2012年学術集会長)、日本美容内科学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本産婦人科医会、日本医学旅行学会
Asia-Oceania Research Organization in Genital Infection and Neoplasia (AOGIN アジアオセアニア生殖器感染および腫瘍研究機構、日本代表理事、2017年東京大会会長)
Aesthetic &Anti-Aging Medicine World Congress(世界美容・アンチエイジング医学会)
Wold Endometriosis Society (世界子宮内膜症学会)
NPO子宮頸がんを考える市民の会(理事長)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班員
独立行政法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター(UNIBIOHN)客員研究員

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