若返り注射でコブダイになってしまった? PART1 PRP療法について美容医療診療指針から (PART2はPRP+bFGF療法)

前の記事でヒアルロン酸注入について書きましたが、今回はPRPについて。(このローマ字だけの頭文字では「何のこっちゃ?」と感じる方が多いでしょう。最近の略語に対する正しいスペルや日本語訳を付記しない習慣が一般的になっていることにリテラシーレベルの低下を感じます。でも、記事のテーマはそれではありません💦)

SNSやネットで話題になっていることで、額へのフィラー注入後に「コブダイ」のオデコになってしまったというものがあります。https://times.abema.tv/articles/-/10121176 ご本人が動画に登場して、詳細を話していますので、関心のある方はそちらをどうぞ。

この記事では、国内の美容関連5学会が共同で発行している美容医療診療指針(令和3年度版)を参考に、PRP+bFGFのうちの、PRP単独療法について解説します。

PRP(多血小板血漿、platelet  rich  plasma)から。血小板とは血液に含まれる成分のひとつで、一般には止血(出血した際にその出血を止める)作用が最も重要であるが、それ以外にも様々な機能を持っている。PRP とは自己の血液(全血)を採取して遠心分離で濃縮して、血小板成分だけを多く含むように調整した血漿液です.PRP 療法の源流は,1970年代に血小板液が創傷治癒に有効であることがわかり、2007年に線維芽細胞(コラーゲンやエラスチンなどを増殖させるのに重要な細胞)増殖促進が検証された.美容医療への応用は2009年からで、シワ治療の一環として低侵襲(体への負担が少ない)の再生医療である療法が施術されるようになっています。国内では2010年に顔の眼囲のシワへのPRP 注入療法が最初に発表されました。

PRP を目的部位に注入して血小板から放出されるPDGF,TGFβ,VEGF などの多種の細胞増殖因子を高濃度で目的部位の皮膚や皮下脂肪,表情筋,靱帯などに作用させることにより,シワ・タルミの改善を目指す治療法です。

ここからがポイントです。美容医療において、PRPはもはや皆が知っている単語になっていますが、実は本法は日本で「未承認医療」であり,再生医療等安全性確保法の第三種リスクの対象とされ,PRP を用いたシワ・タルミの治療を行う場合は,認定再生医療等委員会の審査を経て厚生労働省への届け出が必須となっています。

ところで、顔のシワ・タルミと言っていますが、実は以下のような様々な種類が含まれます。眼囲や口囲に生じやすいちりめんジワ(小ジワ),より深く固定したシワ(中ジワ),鼻唇溝や眉間,前額などの溝様のシワ(陥凹ジワ),表情に伴い目尻や眼囲,口囲に生じるシワ(表情ジワ),軟部組織が緩んで顔全体や顔の一領域に生じる緩みと下垂(垂れジワ/タルミ)が含まれます.PRP 療法の適応となるシワ(つまり効果があるの)は,小ジワから中ジワです.

陥凹ジワは脂肪注入との混合移植を併せて行うことで効果を得ることが多い.表情ジワ垂れジワに対しては,PRP 単独での改善は大きく期待できないことから,前者にはボツリヌス菌毒素製剤の注射を,後者にはフェイスリフト手術やスレッド(糸)リフトを,軽微な場合はレーザー治療などが適用されている.

留意点として,PRP  療法と呼ばれているものの、一つの製剤・方法の均質なものではなく,調製法や注入法などの諸条件により作用効果が異なっている。具体的には,全血採取後に得られた血液の血小板数の個人差,添加する抗凝固剤の有無と量,遠心分離法,遠心分離機器,回収分画,活性化の有無,保存の違いにより異なる.PRP 注入は,使用器具,注射針,各種のシワ・タルミに対する注入法や注入手技,注入後の保存治療などにより治療効果が異なってくる.従って、施術者がどれだけ、PRPの特徴をよく理解し、使用するPRPを使い分けること、そして、患者さんにその違いを説明できることが重要です。

欧米でも本邦でも,PRP 単独療法による顔面のシワとタルミの効果はいずれも50%未満(エッ?)とするものがほとんどであり、製剤や注入法も様々で比較ができない。また,信頼性の高いランダム化臨床試験での結果では,コントロールの生理食塩水(比較対象のために使ったただの塩水)より有意に優れた結果は得られなかった.しかし,質感,下眼瞼の色調やシワは改善したとの報告が散見されました(主観的には良い?).PRP 単独療法ではいずれも重篤な合併症はなく、主なものは、一過性の合併症として発赤,浮腫,熱感,痛み,圧痛,皮下出血,表皮ピーリング,皮膚乾燥感等がある。皮膚の発赤は数日,皮下出血や溢血斑を生じた場合は色調が消退するまで1~2週間を要する。稀ながら、血腫から長期の皮下硬結に至ることもある。最近、海外からの報告で不慣れな術者により失明の例が報告された。

PRP 単独療法は治療効果は弱いものの比較的安全性が高いことから,顔のシワ治療を希望する患者には弱く推奨される治療法と考えられています.また、長期成績は不明であり、今後,長期観察を行い有効性と安全性について検討することが必要とされています。つまり、将来、あなたの顔がどうなるかについては、答えが得られない状況にあります.

*美容医療診療指針はこちらから。https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00749/

*画像は以下から。https://stock.adobe.com/jp/search/images?k=%E3%82%B3%E3%83%96%E3%83%80%E3%82%A4

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この記事を書いた人

代表紹介 今野良 
医師 (自治医科大学卒業)
医学博士 (東北大学)
Prof. Ryo Konno, MD, PhD
臨床医・研究者としてのキャリアと実績

所属・学会・研究員
自治医科大学総合医学第2講座(産婦人科)教授
日本産婦人科学会(専門医)、日本婦人科腫瘍学会(専門医)、日本産婦人科内視鏡学会(理事、技術認定医)、日本臨床細胞学会(専門医)、日本エンドメトリオーシス学会(理事)、日本婦人科がん検診学会(2012年学術集会長)、日本美容内科学会、日本癌学会、日本癌治療学会、日本産婦人科医会、日本医学旅行学会
Asia-Oceania Research Organization in Genital Infection and Neoplasia (AOGIN アジアオセアニア生殖器感染および腫瘍研究機構、日本代表理事、2017年東京大会会長)
Aesthetic &Anti-Aging Medicine World Congress(世界美容・アンチエイジング医学会)
Wold Endometriosis Society (世界子宮内膜症学会)
NPO子宮頸がんを考える市民の会(理事長)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班員
独立行政法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター(UNIBIOHN)客員研究員

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