- 医学全般を承知していること
- 解剖学的知識の理解
- 製剤(薬品)や機器の特徴の把握
- 複数の機器を使いこなし、適切な選択ができること
- 適応や禁忌を守ること
- クライアント(患者様)とよいコミュニケーションが取れること
以上は、ほとんどの診療科の医師に当てはまることだと思います。今回は、美容外科医について、主に1)と2)について書きます。医師である以上は誰でも国家試験に合格し、最低限の医学的知識は持っていますが、大学を卒業したばかりや初期研修を終えたばかりの医師は、現場ではほとんど「使えない」存在です。指導医や上司、あるいは、他の医療従事者の助けによって診療を行い、少しずつ手技や処置、手術などとともに、患者様とのコミュニケーションの仕方を身に着けて、次第に独り立ちしていきます。とくに、外科系では、手術等の基礎になる解剖学的知識は最も重要です。体の組織や器官を切ったり、縫ったりできるのは医師だけの資格ですが、外科医に限らず内科医でもその知識は身に着ける必要があります。最近、医学界で「直美」という言葉が時に注意喚起を込めて使われるようになりました。これは初期研修(大学卒業後の2年間)で一通り全科を回って研修を受けた後に、他の外科系診療科を経ずに真っ直ぐに、美容外科医になること(すなわち、ちょくび)です。どうしても、医師としての経験が少ないことと全般的な知識や技量不足のために、日常の診療内容からすこしでもはみ出した事象が起きたり、合併症が起きたりした場合の対応が不十分になる可能性を懸念したものです。
最近の美容医療では、「切らない外科」といわれる手術ではない手技、すなわち、注入やレーザー等による治療が盛んになっています。美容外科に限らず、美容皮膚科、美容内科という分野からの参入も増えているようです。ヒアルロン酸やボツリヌストキシンを注入するだけだから、経験が少なくても大丈夫などということは決してありません。3次元の顔の解剖をよく理解し、皮膚、筋肉、骨、その間の結合組織などとともに、重要な血管や神経の位置と深さを十分に知らないと何一つできません。注射した部分が「プクッと膨れればいい」とか、「しわが目立たなくなればいい」というような簡単な理論ではないのです。どこに注入すると、どの皮膚や筋肉に作用するか、周りの組織への影響はどうか。神経を傷めないことも大切ですし、血管に薬剤を誤注入してしまうと顔の壊死(血管が詰まって=塞栓、血液が流れなくて組織が死んでしまう)や目が動かせない、見えない(失明、この場合治らない)を起こす可能性もあります。ちょっとした注入のはずが一生の障害を残すことになります。注入の手技を実際にご覧になった方は少ないと思いますが、あの注射の高度な技術には本当に敬服します。美容外科クリニックを選ぶ際には、宣伝や費用の安さに惑わされずに安心できる医療機関を選びたいものです(それが、実は難しい!)。
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